中学受験に全く関係ないのですが、
「電車で急変した乗客に出会った時の話」
をしてみます。
このブログを書いている数日前にこの出来事は起こりました。
その日、私は勤務している病院外で仕事があったので電車で出張に行っていました。
仕事が終わり18時ごろ電車に乗っていると途中の駅で停車し、
「体調を崩したお客様がおられます。医療関係者の方がいたら1号車まで至急お越しください」
というアナウンスが流れました。
ドラマとかでよくあるやつです。
それが実際に起こりました。
病院内では四六時中「急変」って起こるのですよね。
「⚪︎号室で急変です!」
という院内放送が流れると、手隙の職員は皆で駆けつけます。
病院ごとに
「コードブルー!」
とか
「ABC放送!」
などと緊急を表す言葉でアナウンスされます。
そして、さながら、お祭りのような感じになります。
で、だいたい、現場に着く頃には人だかりで概ね解決していることが多いのです。
まぁ、ほぼほぼ現場に居合わせた医師を中心にことが進んでいるからです。
その医師の専門外のことが起こった時に、駆けつけた専門医に応援を頼む感じになります。
これはあくまでも「病院内」というシチュエーションです。
外で急変した患者さんに出会った時、自分はどう対応できるか?
って、以前からよく考えていたことなんです。
特殊なシチュエーションではない限り、
迷わず行こう
とは思っています。
特殊なシチュエーションは、自分の家族に大きなトラブルある時とかです。
まぁ、それ以外はできるだけ「迷わず行こう」と思っています。
というのも、自分が救急系に長く携わってきたというのが大きいです。
妊婦さんのお産以外はなんとか対応できるかなと思っています。
実際に完璧に正しく対処できるかわかりませんが。
とにかく、そういう気持ちではいます。
気持ちだけではなく、知識の確認も行なっています。
最新の心肺蘇生法、それを脳内シミュレーション。
大袈裟に書いていますが、イメトレですね。
お付き合いしている企業様に「生活習慣病で危ない人」をお見かけするのですが、その人が急に倒れてしまったらどうするか?なんてイメトレしています。
事業所の中にAEDの所在とかきちんと確認します。
不謹慎ですが、登場人物を仮定するとイメトレにリアリティが出ます。
要は、
外で急変あってもバッチ来い!
っていう意気込みでいます。
話を戻します。
仕事が終わり18時ごろ電車に乗っていると途中の駅で停車し、
「体調を崩したお客様がおられます。医療関係者の方がいたら1号車まで至急お越しください」
というアナウンスが流れました。
その時、混雑した車内で運よく座席に座っていたのですが、おもむろに立ち上がり現場に向かいます。
混雑していた車内で座っている乗客がいきなり立ち上がるって「医療関係者」って周りはわかると思います。
なんとなくですが、
「え? お前、医者なの?」
的な視線をものすごく感じました。
自意識過剰かもしれませんが。
見た目は医者っぽくないので(どちらかというと少しチャラめかもしれません)。
私は、8号車くらいに乗っていたので、先頭の1号車まで150mくらいでしょうか?
走って向かいます。
1号車の先頭扉に人だかりができていたので場所はすぐわかりました。
どうしても病院内の感覚でいたので、
人だかりがあるとどうせ医者が1人は来ているだろう
と思っていたら、まさかの医者は私1人。
私が来る前から駆けつけて対応をしてくれていた数名の乗客の皆さんに
「医者です」
と告げて、作業に取りかかりました。
見た目、50歳代の男性。
仰向けの状態で倒れていました。
まず、意識があるか確認しますが全く意識がありません。
呼びかけで全く反応しない場合を医学用語で
「JCS3桁」
と呼びますが、まさに「JCS3桁」でした。
次に脈があるかどうかを確認します。
頸動脈(首の動脈)
大腿動脈(鼠径を通る動脈)
橈骨動脈(手首の動脈)
がいずれもよく触れました。
脈が触れるということは、心臓が正常に動いているということになります。
ここまでの意識の確認と脈の確認は大体10〜20秒くらいでできます。
意識がない状態(JCS3桁)の原因でまず一番初めに疑うのが、
「心臓」
になります。
心臓が止まると脳に血が行かなくなり意識がなくなります。
心臓が原因かどうか、これがまず第一に考えなくてはいけません。
この患者さんは、脈が触れる=心臓は大丈夫ということがわかりました。
ちなみに、脈が触れなかったらどうするか?ですが、心肺蘇生を行うことになります。
心配蘇生を「CPR」と呼んでいます。
上記のイラストは、日本循環器学会のHPより拝借したものですが、
突然倒れ、反応も呼吸もない人がいたら、
①周囲の人に助け求めAEDを要請するとともに119番通報をします
②直ちに胸を強く圧迫します(できるだけ早く始めることが一番大事)
③そしてAEDが届いたらAEDを装着します。
AEDとは、自動対外式除細動器の略で、突然意識不明の原因となる不整脈(心室細動や心室頻拍)を電気ショックで止めてくれる装置です。
難しくはないので、覚えておくと良いと思います。
いつ何時、誰かが、突然倒れて心肺停止になってもおかしくないのです。
最愛の人が倒れて何もできず、後悔することがないよう一度は見ておいた方が良いでしょう。
日本循環器学会のHPを参考にしてください。
この患者さんは、心臓は大丈夫ということがわかりました。
心臓が大丈夫だと心臓マッサージ(胸骨圧迫)やAEDはすぐに必要にないです。
次に、診察すると…
左共同偏視と右片麻痺の所見を認めました。
共同偏視とは、両目の眼球が左右どちらかの方向で固定した状態を言います。
これは、同側の脳の障害が疑われます。
この患者さんは、半目を開けていた状態で左共同偏視でした。
また、左の上肢と下肢は屈曲していたのですが、右の上肢と下肢は脱力しており明らかに力が入っていません。
ぶらぶらの状態というとわかりやすいと思います。
これらの「左共同偏視と右片麻痺の所見」で、左の脳出血が疑われます。
おそらく被殻出血によるものかと推定されます(被殻出血まではその時はわかりませんでしたが、のちにTwitterで指摘され教えてもらいました)。
ここまででおそらく1分くらい。体感なのでもっと時間が過ぎていたかもしれませんが。
呼吸の状態は?
呼吸が大丈夫かどうかも確認します。
その時に、私よりも先に対応してくれていた方の1人がなんと訪問看護師さんでした。
後で伺うと、訪問看護に出勤する途中だったとか。
そんな中で駆けつけてくれたのは感動です。
その訪問看護師さんがサチュレーションモニターを持っていたので、患者さんの酸素飽和度を計測しました。
サチュレーションモニターは血液の酸素濃度(酸素飽和度:SpO2)を計測できる器具です。
コロナの時に有名になりましたね。
脈拍と酸素飽和度を測れます。
酸素飽和度は大体96%以上が正常です。
その患者さんは97%くらいあったので、呼吸状態は大丈夫です。
また、本当に奇跡的なのですが、非番の救急救命士の方も駆けつけてくれました。
その救急救命士の方に救急車の手配をお願いしました。
そうこうしているうちに駅員の方が担架を持ってきてくれました。
電車内で処置していたのですが、担架に患者さんを乗せて電車からホームに運びました。
車内で処置するとすごく遅延してしまうので。
ここまで5分かからなかったと思っています(体感なのでもうちょっとかかっているかもしれませんが)。
救急隊が到着するまでにまだ時間がありそうです。
通常であれば、救急隊のストレッチャー(車輪がついている担架)を待つべきですが、そこの駅はストレッチャーや担架がのるエレベーターはありません。
意識障害をきたしている脳出血を強く疑う患者さんだったので、できるだけ早く手術を受けないと死亡率が高くなります。
救急隊が来るまでに担架で患者さんを駅の改札まで運んだほうが良いと判断しました。
仕事帰りだと思われるサラリーマンの方も担架を持っていただき搬送を手伝っていただきました。
改札まで運び、到着した救急隊に引き継ぎをしました。
かなり容態としては厳しですが、なんとか助かってほしいです。
Twitterでも書きましたが、
「それにしても、世の中、まだ捨てたもんじゃないな」
と感じました。
乗り合わせていた看護師さん、救命士さん、その他、仕事帰りのサラリーマンの方々が完全な善意で協力プレー
なかなかこんな場面に出くわすことはありません。感動。
TwitterをはじめとするSNSでは殺伐としたニュースばかりで暗澹たる気持ちになりますが、今回のことに出会えて日本もまだまだ頑張れるんじゃないかって思いました。
私個人的には、この患者さんに医師として治療らしいことはしてあげられませんでしたが、脳疾患を疑い脳外科がある病院にできるだけ早く搬送してもらえたことで少しでも治療がうまくいってくれればいいなと思います。
世間的には、駆けつけたものの訴えられるリスクとかあるみたいですが、多分、今後も気持ちが続く限り、求められたら駆けつけたいと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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